不可逆なオーバーラップ
Irreversible Overlap

2021
Installation
第66回卒業修了作品展/東京藝術大学 上野校地
2020年度 京成電鉄藝術賞


 この作品では、液体や光の不可逆な動きを重ね合わせることで予期せぬイメージと邂逅することを目的としている。私たちの暮らす世界は、人工的なシステムが制御するものが随分と多くなってきた。何をするにしても、元来の自然環境からは遠く離れ、テクノロジーが付き纏う。2020 年から現在に至るまで続いているパンデミックでは特に顕著であったが、私たちの呼気はマスクによって制御され、私たちの体温は記録され、外界とのコミュニケーションには必ずと言えるほど鉄の板が挟まるようになった。その世界の中でただ存在していると、自分が何かを見ているというより、情報を見せられている感覚があった。私たちは本当に見ているのだろうか。そのような思いから、修了制作として不可逆な現象が重なり合う瞬間を目撃し、 見ることについて思索するための空間を設えた。「見ること」を起点として、機械と人間の間にある自然現象に目を向けることで、知覚によって重なり合って生まれる感覚を、私たちの網膜の中で感じることができるのではないだろうか。また、これは電子機器によって作り出される制御された人工的な光や動きであっても、重なり合う、あるいは散乱していく状況を目撃することで科学技術を自然の状態に還そうとする試みでもある。たとえ人工物で世界が埋め尽くされ、原生林的な自然から遠く離れたとしても、自然現象と出逢う実感が身体にある限り、人間はどこまでも自然を感じることができるのだと信じたい。