near Phenomena
2018
諏訪葵、村上直帆二人展「near Phenomena」
中央本線画廊
ステートメントに代えて
「コペンハーゲン解釈」と呼ばれる量子力学の解釈がある。ある対象は、
それが「観測」される以前には複数の異なる状態の重ね合わせで存在する。
しかし、一度その対象が人間によって「観測」されると、複数の状態の重ね
合わせだったものがひとつの状態に収束してしまうそうだ。
量子力学における「観測」という言葉が示すところは通常の語彙とは少し
意味合いが異なるようだが、あるいは「シュレディンガーの猫」を思い浮か
べるとよいかもしれない。箱の中身を開けるまで、猫は生きているか死んで
いるか決定できない。その意味で猫はその姿を目撃されるまで、生と死、二
重の状態にあると言える。
本展示は、現象と表象をめぐる、その二重の主体性をテーマにしている。
ひとつの作品を現象として捉えれば表象としての面を取り逃がし、ひるがえっ
て表象をつかんだと思えば現象がすり抜けていく。
そうして決定を拒む対象物に対して、それでは、「見る」ではなく「いる」
ことはできないだろうかと問う。
向き合う(toward)のではなく、そばにいる(near)ことはできないだろ
うか。その気配を感じることはできないだろうか。現象の近く(near
Phenomena)で、佇み、そして戯れることはできないだろうか。本展はこれ
らの問題意識の上に成り立っている。
現象から表象へ、表象から現象へ。水から絵へ、絵から油へ。表面から奥
へ、奥から斜めへ。 現象と表象を巡るその往復を、お楽しみください。
企画:中央本線画廊/小林太陽